家具というもの
2011|家具 圧縮杉
東京工芸大学芸術学部卒業制作展2011
デザイン学科ヒューマンプロダクトコース賞 受賞
大学の卒業制作で手掛けた作品。「理想のプロダクトデザインの追究」というあまりにも大き過ぎる研究テーマを掲げ、良い製品とは何かを考え続けました。
「家具というもの」という発想は、純粋に物が生まれる瞬間を体現したいと思い考え出した切り口でした。椅子といえば座があり背もたれがあり脚がある。名称から既に形が頭の中で描かれます。その良さもありますが、頭ではなく、もっと根源的な人間の行為から生み出したいと考えていました。私が日々行っていた行為は、家に帰ると鞄と服を掛け、携帯電話や財布を机に置くといった行為であり、この動線上に生まれるものは椅子でも棚でも机でもない、紛れもなく「家具というもの」だと思いました。
プロダクトは、様々な場所で様々に使われます。だからこそ、適合性の高い存在を目指しました。用途の限定はしていません。使う方の生活環境の中で自由にご使用頂ける、あったらいいなと思えるものの在り方を思案しました。
素材には圧縮杉を選択しています。圧縮することにより、家具に適した硬さを持った杉材です。古来より木は身近な素材であり、現在でも多くの家具や床材、建具にも使われている点から、親しみやすい素材だと感じ選択しました。単純に心地がいいというのも家具に相応しいと思う理由です。中でも杉は成長が早くまっすぐ伸びる上、日本の人工林に豊富にある資源です。持続可能性からも生産に向いている素材と判断しました。
人がモノと接する高さは大きく分けて「立つ・椅子に座る・床に座る」という3つの領域があります。天板(座面)は、このいずれの状況においても自然に接することができる高さを模索しました。全く同じ板であっても、高さが変わると人は椅子にしたり机にしたり棚にしたりします。知識や経験を、高さや環境と照らし合わせて、単なる板を臨機応変に使い分けます。このような行為・行動を応用することで、家具という存在に近づけると考えました。
「掛ける」機能を持つ棒部分に白を採用した理由は、一般的な壁の色が白色だからです。あくまでも「掛ける」にフォーカスできるように、なるべく存在感が薄まる色にしたいと考え白を選びました。円柱についても同様に、光が回り背景に同化しやすくなることから棒の形状として円柱を採用しています。
色展開としては素材色の他、黒も想定しました。存在しているけれども存在感がない。機能のみが浮かび上がるような、そんな存在感になるように、素材色彩形態を思案し導き出した作品です。
結果として卒業制作展では、在籍していたヒューマンプロダクトコースの賞を受賞させていただき、ひとつの集大成としてプロダクトデザイン学を修めることができたことをとても嬉しく思っています。
デザイン・制作・撮影 | 戸田光祐 |
素材提供 | 飛騨産業株式会社 |